米国経済、地政学リスクと労働市場の悪化で政策選択肢が縮小

新任のケビン・ウォーシュ米連邦準備制度理事会議長は、2月の予想外の失業と物価上昇、さらには米国とイランの緊張激化による原油高騰という複数の課題に直面している。赤字は前年同期比で改善傾向にあるものの、地政学的ショックによる油価100ドル超とガソリン価格の上昇が家計を圧迫し、雇用支援とインフレ抑制の間でジレンマに陥っている。1970年代以来のスタグフレーションの懸念が再燃し、金融政策の選択肢は急速に縮小している。

米国の労働市場が2月に予想外の弱さを見せ、経済の転換点が迫っていることを示唆している。非農業部門の雇用者数は前月比で9万2000人減と、事前予想の5万人増から大きく反転した。失業率も4.3%から4.4%に上昇している。一方、消費者物価上昇率は前年同月比2.4%で落ち着いており、経済は冷え込んでいるものの、政策当局が期待していたようなディスインフレは進んでいない。サンフランシスコ連邦準備銀行のメアリー・デーリー総裁はこの雇用統計がウォーシュ議長の金利決定を複雑にしていると認め、当初の想定よりも政策の選択肢が限定されていることを浮き彫りにした。

地政学的な緊迫化が家計と市場心理を直撃している。米国とイランの対立激化によりホルムズ海峡の原油供給が途絶し、イランの対中輸出が続いているにもかかわらず原油は100ドル近辺に上昇している。ガソリン価格は1カ月で21%も急騰し、2024年以来の高水準に達している。エネルギーコスト全体が住宅ローン金利と消費力を圧迫する中、基調的なインフレは依然として粘着性を保っている。こうした状況は、成長が減速しながら物価圧力が続く典型的なスタグフレーション局面であり、政策当局が回避を望んでいた悪夢のシナリオである。

財政面でわずかな改善の兆しがあるものの、それは十分な救いにはなっていない。2月までの連邦赤字は1兆4000億ドルに達したが、前年同期比では約12%改善しており、政府支出が高い水準にあるにもかかわらず赤字削減の方向性は示されている。しかし、この限定的な改善も、労働市場の悪化と地政学的なエネルギーショックの同時進行の前では焼け石に水であり、インフレの再燃を招かずに積極的な財政政策を実施する余地は極めて限定的である。

ウォーシュ議長が直面する政策のジレンマは真の意味で逃れようのないものだ。従来の金融引き締めの主要な手段である金利引き下げは、停滞する雇用を支援できるが、エネルギー価格がすでに上昇している局面でインフレを再加速させるリスクを抱えている。反対に、インフレと戦うために金利を据え置けば、失業の加速と成長の鈍化を招きかねない。このいずれを選んでも苦しい状況は、1970年代のスタグフレーション時代を彷彿とさせるもので、刺激策にせよ抑制策にせよ経済的な痛みをもたらし、あらゆる方面から政治的圧力を受けるものである。

こうした展開は、労働市場が弱さを見せ始めた今、ソフトランディングを実現する連邦準備制度の能力を大きく制約している。地政学的緊張が続き、エネルギーコストが高止まりすれば、家計は雇用創出が鈍化した局面で購買力の低下に直面することになる。市場は成長とインフレの見通しを同時に見直す中で、ボラティリティの上昇が避けられない。投資家と政策当局の双方にとって、従来の政策対応の選択肢の窓は急速に狭まっている。

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